モルトはビール醸造で最も重要なハーブである
有用で香り高い植物をハーブと定義するならば、モルトもハーブの一種と言えます。
ビール醸造は発酵の前段階として、モルトを含めたハーブ&スパイスから糖や栄養、香りや味わいをたっぷり引き出したハーブティーを淹れるところから始まります。
このハーブティーを適度に冷ませば、そこに人為的または自然に集められた酵母が発酵をはじめ、糖がアルコールに換わります。
この糖は主にモルトから供給されるため、モルトはビール醸造において最も重要なハーブと言っても過言ではありません。
ベースモルト
しかし、モルトからはダイレクトに糖が引き出されるわけではありません。初めにお湯に引き出されるのはデンプンと糖化酵素です。これらの温度や酸性度を上手くコントロールしてやることで、デンプンは酵素によって発酵可能な糖に変換されます。この糖化酵素の強さはモルト製造時の熱処理の方法によって異なり、高い酵素力を残したモルトはベースモルトと呼ばれます。
キャラクターモルト
モルトから引き出されるのは糖や栄養だけではありません。ビールに香ばしく甘い風味をもたらすのもモルトの大事な役割です。この風味もモルト製造時の熱処理方法によって異なり、程度によってナッツやコーヒー、蜂蜜やカラメルなど様々な風味のモルトが出来上がります。強い熱処理を加えたモルトには糖化酵素は残っていません。これら風味の付与が主な目的のモルトはキャラクターモルトと呼ばれます。
アンバーモルトを使用したJOUFUKUの作品
Fougère 桜
『フゼア桜』で使用したのはイギリスCrisp社のアンバーモルトです。アンバーモルトは非常に低い温度でのロースト処理が施されており、糖化酵素はほぼ残っておらずキャラクターモルトに分類されます。風味はナッツやトーストに例えられるのが一般的ですが、個人的には枯れた落ち葉のような土の香りも感じます。
『フゼア桜』で表現した“フゼア”という香調において、キレと甘さは重要なトーンですが、ここに紳士的な落ち着きをもたらすのが土の香りです。香水ではパチョリやベチバーなどの香料が用いられますが、本作ではビールらしくアンバーモルトの土の香りでフゼアを構成してみました。