学名:Humulus lupulus var. neomexicanus ‘Sabro’
別名:HBC 438
分類:アサ科カラハナソウ属
ホップもハーブの一種である
醸馥は「ビールはハーブティーを発酵させた酒である」と考えています。
これについてはまだまだ共感を得られないことは百も承知ですが、
「ホップもハーブの一種である」
ことについてはそろそろ抵抗なく受け入れてもらえると思います。
ならばもう一歩踏み込んで、ホップ以外のハーブやスパイスにも興味を持ってもらえると嬉しく思いますが、なかなかそれも難しい気持ちもわからないではありません。
ホップの産地・風味は大まかに4分類(では説明がつかなくなってきた)
というのも、今やホップだけでも数百品種がリストアップされているからです。我々でもそれら全ての特徴を個別に把握しているわけではありません。
そこでホップ品種を産地や風味の観点から大別します。
少し前までなら次の4分類が妥当でした。
・大陸ヨーロッパ系(ドイツ、チェコなど):スパイシー、フローラル
・イギリス系:土っぽい、紅茶
・アメリカ系:柑橘、松脂
・パシフィック系(ニュージーランド、オーストラリア):トロピカル、白ブドウ
しかし、最近は上の4つで分類することにも無理が出てきています。
クラフトビールの人気向上とホップ生産者の努力のおかげで、世界中で様々な風味のホップが出現し始めているからです。
特にアメリカでは次々と新しい風味のホップが開発され、
“アメリカンホップ=柑橘、松脂”
という図式では到底説明がつかなくなってきています。
Sabroホップの出現
個人的にそのことを最も痛感したのは、2018年以降にSabro(旧HBC 438)という品種のホップが出回り始めた時です。
Sabroホップの風味はそれまでのどの品種とも違い、オーク、ウッド、ココナッツ、ミルク、ディルなどです。
初めてSabroを使用したビールを飲んだ時は、てっきりオーク樽で熟成されたビールだと思い込んでしまい、その風味がホップから来るものだと知ったときのことは、“個人的ビールにまつわる衝撃トップ10”に必ず入ります。
neomexicanus種の血流
植物分類学的な話をすると、それまでのアメリカンホップはアメリカンと言いつつも、ヨーロッパから持ち込まれた
Humulus lupulus var. lupulus
という種の血統が強いものでした。しかし1990年台になって、北アメリカ西部に自生していた
Humulus lupulus var. neomexicanus
という種が公に出現し、その独特な風味に注目が集まりました。neomexicanus種同士、またはそれを別の種と交配させた品種が開発され始めました。Sabroもneomexicanus種の血流を組むホップ品種です。
Sabroホップを使用したJOUFUKUの作品
Fougère 桜
『Fougère 桜』に限らず、醸馥はSabroを多用します。そのウッディでミルキーな風味は、ヨーロッパ系のホップよりも特徴がはっきりしているにも関わらず、他のホップ品種やハーブ、スパイスとの親和性が非常に高いと思うからです。
感覚的表現にはなりますが、ハーブのブレンドやビールの試作をしていて「風味にグラデーションがない」と感じることがあります。そんなときにSabroを使用すると、飛び石的だった風味にたちまち連続性が生まれるイメージです。
本作『Fougère 桜』においてSabroのミルキーさは、桜葉やトンカ豆が有するクマリンという成分の杏仁豆腐のような香りとこの上なく調和しています。なおかつ、Sabroのディルのようなハーバルさは、ラベンダーやベルガモットのトップノートから下る梯子のような役割を果たしています。